半田晴久 産経新聞連載 第49回「直前アドバイス②」

「すべり止め」意識は捨てよ

 大学、高校を問わず、受験校を決める目安を、「すべり止め」「実力相応」「実力より上」と三つのレベルに分けている人が一般的です。この絞り込み方法に間違いはありませんが、私は「すべり止め」との考え方には賛成できません。すべり止め校を受験することが悪いのではなく、「すべり止め校という意識を持つことに落とし穴がある」と警告したいのです。

 

 これまでに、万を超す受験生を指導してきました。その経験でいえば、「ここは絶対に合格間違いなし」と目されていた「すべり止め校」に失敗したことでパニック状態に陥り、残る受験校もすべて失敗した受験生が少なからずおりました。

 

 受験生の心理は非常にデリケートで、ちょっとしたことに動揺しがちです。「絶対に大丈夫」との自信で臨んだ・すべり止め校・に失敗したとなれば、絶望感は計り知れません。なかには自信喪失し、受験どころではない受験生もいます。そんな心理状態の受験生に「平常心を失うな」と忠告し、励ますこと自体が酷な話といえます。

 

 もし、実力より上の学校に挑戦した、いわゆる「あこがれ受験」であれば仮に不合格でも、「ああ、やっぱり」と冷静に受け止め、ショックを引きずることにはならないでしょう。ですから、私は「すべり止め意識で受験するな」と、戒めるのです。

 

 要は考え方の問題なのです。極めて簡単なことで、受験の意図を「すべり止め」とせず、「第一志望校に必ず合格するために必要なウオーミングアップ受験」と意識すればいいだけ。すべり止めと位置づけるから「絶対合格」のプレッシャーがかかる。ウオーミングアップと考えれば、気楽に受験でき、失敗しても自信喪失やパニックで、せっかくの受験を台無しにする事態は回避できる。

 

 本番の緊張や試験への取り組み方のテクニックなどに慣れ、あくまで第一志望に向けたウオーミングアップ校ととらえることで、受験回数をこなすごとに実力も上昇。不運にも「すべり止め校」に不合格だった受験生で最終的に「あこがれ校」にだけ合格したというケースは、私の予備校でも多数います。

 

 受験に大切なのは平常心です。失敗を糧に「災い転じて福となす」とするためにも、・すべり止め・の考え方だけは改めてほしい。

 

 

みすず学苑 半田晴久

2004年2月5日  産経新聞