半田晴久/深見東州 産経新聞連載第15回「教育の実像3」

「ゆとり教育」考え直す必要も

 十二年ほど前、たまたま旅行先のエジプトで見た日本の教育を特集したテレビ番組が今も強く印象に残っている。バブルが崩壊したとはいえ、まだ日本経済に力強さが残っていたときで、番組は「日本人がハイテクに強く、日本経済が隆盛を誇っているのは、きっと教育制度が優れているからに違いない。日本の教育をいろいろな角度から分析してみよう…」というのがテーマでした。

 

 なかなか興味深い番組で、とくに印象に残っているのは、ブッシュ大統領(現米大統領の父)が行った教育改革に関する話でした。番組によると大統領は、日本経済発展の原動力を探るべく日米の教育を比較した結果、日本は数学を含めた科学教育に優れていることに気づき、「アメリカの子供たちは遊びすぎだ。このままでは国の将来が危ない。日本の子供を見習ってもっと数学を勉強しろ」と、カリキュラムを見直し、小中学校の数学の授業時間を大幅に増やしたそうです。

 

 番組では、日本の教育をどう思うかと、世界のトップにもインタビューしていました。

 

 驚いたことに、外国人は、総じて日本の教育を大絶賛していたのとは対照的に、日本のトップは全員が自国の教育制度の問題点ばかりを憂えたのです。

 

 番組の中で、この相違に対する感想を求められた三木内閣の文相だった永井道雄さんは、「誰しも、経済が発展し国力があるときは、国の教育がいいからだと考え、国力が衰えてきたら教育が悪いからだというものですよ。日本の経済や国力が落ちてきたら、教育はよくないといいますよ」と英語で答えていた。

 

 確かにそのとおり。だからこそ、国力にあふれていた日本の教育に注目が集まったのです。しかし、日本の教育界では、その当時ですら、知育偏重はよくない、詰め込み教育はダメ、受験地獄は子供の可能性を摘み取るだけ…と、けなしてばかりいたのですから、実におかしな話というほかありません。

 

 その後、日本は国を挙げてゆとり教育に取り組んできたわけですが、その結果はいわずと知れた知力の低下。目の敵にされていた塾通いの比率は、それほど増えていません。学力低下をゆとり教育と結びつけるのは、少し安易すぎますが、教育をもう一度、腰を据えて考え直す必要があるのではないでしょうか。

 

 

みすず学苑 半田晴久

2003年6月5日  産経新聞