半田晴久(深見東州)日本国際フォーラム第36政策提言

グローバル化時代の日本のエネルギー戦略 2012年6月

エネルギーは、国家・社会の存立基盤であり、これを安定的に確保できるか否かは、まさに国民にとって死活的な安全保障問題です。それゆえ、エネルギー問題は、まずもって戦略的見地から論じられなければなりません。しかし、2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う巨大津波による東京電力福島第一原子力発電所の深刻な事故を受けて、わが国では原子力発言に対する拒否反応が高まり、冷静にエネルギー安全保障の戦略を論ずるのではなく、「まず脱原発ありき」の結論が先行した議論が前面に出る傾向が強まっています。

 もちろん、深刻な原発事故を受けて、原発の安全性向上に最大限の努力をすべきことも論を俟ちません。原発の可否を含めた電源論や、電力事業のあり方が盛んに議論されるようになったのも、故なきことではありません。「安全」の確保は不可欠です。しかし、こうした議論は、あくまでも、エネルギー安全保障に関する戦略的議論と合わせて一体的に議論すべきものです。エネルギー資源は、ますます統合と単一化の進むグローバル市場から調達されることを認識する必要があり、われわれの議論は、なによりも「世界の中の日本」という視点を持たなければなりません。新興国や途上国の急速な経済発展、あるいは2050年には90億人に達するとされる世界人口の増加を考えれば、今後、予見しうる将来にわたって、エネルギーの需給関係が逼迫する可能性は高い。とりわけ日本は、省資源で、世界のなかでもエネルギー自給率がきわめて低いという現実を直視すべきです。

 こうした大前提のもので、いかにして、エネルギーを容認可能なコストとリスクで持続的に調達するかということが、エネルギー戦略の大目標となります。世界のエネルギー資源は、中東からの石油、天然ガスの供給に大きく依存しています。このため、中東産油国の供給能力を脅かす中東情勢の不安定化は勿論のこと、ホルムズ海峡やマラッカ海峡などの産油国から消費国への海王輸送のチョーク・ポイントの不安定化も、直ちに世界エネルギー事情の不安定化を招きかねません。したがって、中東地域の平和と安定を確保しつつ、中東以外の地域からの様々な種類のエネルギーの供給の増大を測ることが重要です。中東以外で大量のエネルギー資源がカ賦存する地域といえば、ロシア、豪州、北米、中央アジア諸国、サブサハラ・アフリカなどですが、注意を要するのは、豪州や北米以外については、資源ナショナリズムや、資源をカードに使った外交のリスクが拭いきれず、とりわけロシアについては、日ロ間において平和条約が未締結でもあり、全面的な協力を行う前提条件が整っているとは言えないことです。

 このようなエネルギーに関する地政学的状況を大きく変化させる可能絵師といsて、米国発の「ジェールガス革命」とその世界的余波に注目するべきでしょう。米国やカナダでは、技術の進歩によって、シェールガス、シェールオイル、オイルサンドといった、非在来型の天然ガスや原油の生産が急速に商業ベースに乗ってきています。その結果、米国は天然ガスを輸出しようとさえしています。これは、アジアや欧州などでの天然ガスの価格決定のあり方に変更を迫るのみならず、エネルギー供給源としての中東やロシアの地位を相対化させる可能性ももっています。政治的に安定した民主国家である米国やカナダに、エネルギーをめぐる地政学的中心が移動すれば、グローバルなエネルギー安全保障環境は大きく改善されるでしょう。

 しかしながら、「シェールガス革命」がいますぐにも世界のエネルギー問題を解決すると考えるのも、楽観的に過ぎるでしょう。なお多くの解決されなければならない技術的障害があるからです。環境負荷の大きな化石燃料へのこれ以上の依存を避けようとすれば、中短期的には、より経済性を強めた再生可能エネルギーに、より安全な原子力を組み合わせたベスト・ミックスの形で、包括的エネルギー安全保障の体制を構築するしかないでしょう。我が国のエネルギー戦略は、限られた狭い選択肢のなかで出口を探さざるを得ないことを忘れてはなりません。

 原子力の利用に関しては、ドイツ、スイス、イタリアのように送電を含めて国際連携が成り立っている国々を例外として、世界の潮流は、3・11から教訓を受けて自国の原子炉の安全性と防御性を継続し、あるいは親切を許可しています。中国および韓国といった近隣諸国や、ベトナム、インド、トルコなどの多くの新興諸国は、久蔵するエネルギー需要を賄うために原子力の利用を積極的に推進する方針を堅持しています。中東の産油国ですら、アラブ首長国連邦を皮切りに、将来の原油枯渇を視野に入れて、原発の導入を決定ないし計画しつつあります。これらの動きは、世界的には、地球温暖化防止の動きと連動していることは言うまでもありません。このような問題意識のもと、われわれは、我が国のとるべきエネルギー戦略として、つぎの十項目の政策を提言します。

政策提言

提言1 世界的なエネルギー安全保障環境づくりに

    能動的に取り組め

提言2 将来の「東アジア・エネルギー協力システム」形成を

    視野に入れよ

提言3 EPA/FTAを活用して、

    エネルギーの安定供給を図れ

提言4 省エネルギーの更なる意欲的な推進と

    世界への普及を促進せよ

提言5 米国発の「シェールガス革命」を踏まえ、

    天然ガス市場の国際化を進めよ

提言6 安全性の向上に最大限の努力を払いつつ、

    原発を有効活用せよ

提言7 わが国は、原発の安全性を高めながら

    これを維持することにより、

    原子力の平和利用への国際貢献を続けよ

提言8 再生可能エネルギーの利用を

    着実に推進せよ

提言9 温室効果ガス削減のためにも

    原子力の平和利用に協力せよ

提言10  熱核融合の実現に向けて

    これまでの努力を継続、強化せよ

2012年6月

●政策委員長 

伊藤 憲一 日本国際フォーラム理事長

●副政策委員長 

吉田 春樹 吉田経済産業ラボ代表

●政策委員

愛知 和夫 日本戦略研究フォーラム理事長

朝海 和夫 武蔵大学客員教授

阿曽村邦昭 比較文化研究センター会長

池田 十吾 国士舘大学教授

石垣 泰司 元駐フィンランド大使

市川伊三夫 日本国際フォーラム理事

井上 明義 三友システムアブレイザル取締役相談役

今井 敬  日本国際フォーラム会長

内田 忠男 国際ジャーナリスト

鵜野 公郎 慶應義塾大学名誉教授

浦野 起央 日本大学名誉教授

遠藤 浩一 拓殖大学教授

太田 正利 元駐南アフリカ大使

大宅 映子 評論家

小笠原敏晶 ジャパンタイムズ・ニフコグループ会長

小川 元  文化学園大学客員教授

折田 正樹 中央大学教授

神谷 万丈 防衛大学校教授

河合 正弘 アジア開発銀行研究所所長

木下 博生 元中小企業総合事業団理事長

木村 崇之 元欧州連合代表部大師

黒田 眞  安全保障貿易情報センター理事長

斉藤 昌二 元三菱化学顧問

斉藤 直樹 山梨県立大学教授

坂本 正弘 日本国際フォーラム上席研究員

佐久田昌昭 日本大学名誉教授

櫻田 淳  東洋学園大学教授

右近充尚敏 元海将

佐藤 行雄 日本国際問題研究所副会長

澤  英武 評論家

志鳥 學修 航空評論家

島田 晴雄 千葉商科大学学長

清水 實  ジャパンタイムズ名誉顧問

清水 義和 元会社社長

鈴木 馨祐 前衆議院議員

鈴木貞一郎 アトックス会長

鈴木 淑夫 元衆議院議員

紿田 英哉 国際教養大学教授

高橋 一生 元国際基督教大学教授

高橋 明生 東京大学教授

滝澤 三郎 東洋英和女学院大学教授

田久保忠衛 青森大学名誉教授

田島 高志 元駐カナダ大使

塚崎 公義 久留米大学教授

角田 勝彦 元駐ウルグアイ大使

内藤 正久 日本エネルギー経済研究所顧問

鍋島 敬三 評論家

西村 慎吾 前衆議院議員

袴田 茂樹 新潟県立大学教授

橋本 宏  元駐シンガポール大使

長谷川和年 日韓協力委員会副理事長

畠山 襄  国際経済交流財団理事長

原  聡  京都外国語大学教授

半田 晴久 世界開発協力機構総裁

平泉 渉  鹿島平和研究所会長

平林 博  日本国際フォーラム副理事長

廣野 良吉 成蹊大学名誉教授

福島安紀子 青山学院大学国際交流共同センター研究員

船田 元  前衆議院議員

古澤 忠彦 ユーラシア21研究所研究員

松井 啓  元駐カザフスタン大使

眞野 輝彦 国際金融評論家

宮脇 磊介 初代内閣広報官

矢口 俊和 ビル代行社長

屋山 太郎 政治評論家

湯下 博之 元駐フィリピン大使

渡辺 利夫 拓殖大学総長・学長

渡辺 繭  日本国際フォーラム常任理事

日本国際フォーラムについて

【設立】日本国際フォーラム(The Japan Forum on International Relations,Inc.)は、政府から独立した民間・非営利の外交・国際問題に関する総合的な研究・提言機関を日本にも設立する必要があるとの認識に基づいて、故服部一郎初代理事長より 2 億円の基本財産の出捐を受け、1987 年 3 月に故大来佐武郎初代会長のもとで、会員制の政策志向のシンクタンクとして設立され、2011 年 4 月に公益財団法人となりました。 

 

【目的】当フォーラムは、わが国の対外関係のあり方および国際社会の諸問題の解決策について、広範な国民的立場から、諸外国の声にも耳を傾けつつ、常時継続的に調査、研究、審議、提言するとともに、それらの調査、研究、審議の成果を世に問い、また提言の内容の実現を図るために、必要と考えられる発信・交流・啓発等の事業を行い、もってわが国および国際社会の平和と繁栄に寄与することを目的として活動しております。 

 

【組識】最高意志決定機関である評議員会のもとに、執行機関である理事会、監査機関である監事、そして諮問機関である顧問会議と参与会議が設置されています。また、理事会のもとに、当フォーラムの業務を支援し、あるいは実施する財務委員会、運営委員会、政策委員会、緊急提言委員会の 4 つの委員会および研究室、事務局が設置されています。 

 

【専門】(1)国際政治・外交・安全保障等、(2)国際経済・貿易・金融・開発援助等、(3)環境・人口・エネルギー・食糧・防災等の地球的規模の諸問題、(4)アメリカ、ロシア、中国、アジア、ヨーロッパ等の地域研究、(5)東アジア共同体構想に関わる諸問題、(6)人権と民主化、紛争予防と平和構築、文明の対立、情報革命等の新しい諸問題。 

 

【活動】(1)政策委員会等による各種の政策提言活動、(2)ホームページ上に設置された政策掲示板「百花斉放」における公開討論活動、(3)原則として期間を特定した「研究室活動」と、その枠を超えたしばしば永続的な「特別研究活動」から成る調査研究活動、(4)各種国際会議・シンポジウムの開催や専門家等の派遣、受入等の国際交流活動、(5)『日本国際フォーラム会報』、ホームページ、メールマガジン、出版刊行等の広報啓発活動、(6)「国際政経懇話会」の活動、(7)「外交円卓懇談会」の活動。 

 

【連絡先】

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[注]日本国際フォーラムは、外交・国際問題に関し、会員の審議、研究、提言を促し、もって内外の世論の啓発に務めることを目的とするが、それ自体が組織として特定の政策上の立場を支持し、もしくは排斥することはない。政策委員会によって採択される「政策提言」の内容に対して責任を有するのは、その「政策提言」に署名する政策委員のみであって、当フォーラムならびにその「政策提言」に署名しない当フォーラムのその他の関係者は、その内容に対していかなる責任を負うものでもない。