半田晴久(深見東州)日本国際フォーラム提言

緊急アピール「対露領土交渉の基本的立場を崩してはならない」

わたくしどもは、わが国政府の首脳および一部関係者の日露関係、北方領土問題に関する最近の言動に深刻な懸念を抱き、これを主権国家としてのわが国の存立基盤を掘り崩しかねない由々しい事態であると受け止めています。


谷内正太郎政府代表が、北方領土問題に関して「3.5島でもいいのではないか」と述べたと4月17日に報じられました。麻生太郎首相も2月18日の日露首脳会談後、「向こうが2島、こちらが4島では進展しない」と述べました。つまり、日本政府の首脳が、初めて4島返還という対露外交の基軸を否定するかのごとき発言をしたわけです。

 

北方領土問題は、単なる利害・損得の問題ではなく、何よりもまずわが国の主権、独立、領土が侵されているという、国家存立の基本にかかわる問題です。日本には歴史的にも、法的にも択捉、国後、歯舞、色丹の「4島返還」を要求する根拠があります。その道理や論理を放棄し、「面積折半」のような利害・得失論に転換して、どのような問題解決の展望があると言うのでしょうか。むしろロシア側はより強気となり、問題解決の展望はいっそう遠ざかるのではないでしょうか。このことを考えると、麻生首相や谷内政府代表の発言は、あまりにも軽率な発言であると言わざるを得ません。

 

深刻な問題が、3つあります。

 

第1は、国会において全党一致で決議された原則が、また関係者が長年血の滲む努力で築いてきた平和条約交渉の土台が、政府の首脳および一部関係者の軽率な一言によって、一夜にして崩されることです。

 

第2は、微妙な主権問題の詰めの交渉は、国民の幅広い信頼を得ている安定した政府やその首脳が、非公開で行って初めて解決できる性質の問題です。まだ具体的な交渉も始まっていないうちに、その内容に関連し、妥協を示唆するやり方は、交渉の進め方としてあまりにも軽率です。

 

第3は、情勢判断の誤りです。現在のロシアは、大国主義・ナショナリズムが高揚し、シロビキ(軍・治安関係者)が政治・外交を壟断し、領土問題解決の「機会の窓」は開かれていません。メドベージェフ大統領が「創造的なアプローチを」と述べましたが、日本側だけが「創造的」対応を行っても、自ら交渉の基礎を崩すだけであり、このような状態をわれわれは看過できません。プーチン首相が来日しますが、麻生首相との首脳会談の行方に関して、わたくしどもは深刻な危惧の念を抱かざるを得ません。

 

わたくしどもは、政府の首脳および一部関係者の一連の不用意な発言を深く憂慮し、これらの発言によって日本の国益が取り返しのつかない損失を蒙ることのないように、日本政府が対露外交の原点を再確認して、今後その基本的立場を堅持することを強く求めます。

 

※上記の緊急アピール「対露領土交渉の基本的立場を崩してはならない」は、92名の署名者の連名で、2009年4月30日(木)午後2~3時の日本国際フォーラム緊急提言委員会の記者会見で、代表署名者6名(1名は海外出張中のため欠席)が出席して発表されました。緊急アピールの全文は、2009年5月11日(月)付けの複数の全国紙朝刊に意見広告として掲載されました。

代表署名者

伊藤 憲一(日本国際フォーラム理事長)
児玉 泰子(北方領土返還要求運動連絡協議会事務局長)
田久保 忠衛(評論家)
丹波 実(元駐ロシア大使)
袴田 茂樹(青山学院大学教授)
半田 晴久(世界開発協力機構総裁)
吹浦 忠正(ユーラシア21研究所理事長)

署名者


愛知 和男(衆議院議員(自由民主党))
有泉 和子(東京大学学術支援専門職員)
池田 十吾(国士館大学大学院政治学研究科委員長)
池田 維(元外務省アジア局長、元駐ブラジル大使)
石田 良介(日本剪画協会会長)
板垣 正(元参議院議員)
伊藤 英成(元衆議院議員)
今井 香織(会社員)
今津 寛(衆議院議員(自由民主党))
入江 隆則(明治大学名誉教授)
上田 次兵衛(日本郷友連盟理事)
潮 匡人(評論家)
内田 忠男(国際ジャーナリスト)
梅澤 昇平(尚美学園大学教授)
遠藤 哲也(元原子力委員会委員長代理、元駐ニュージーランド大使)
大河原 良雄(世界平和研究所理事長、元駐米国大使)
大藏 雄之助(異文化研究所代表)
太田 正利(元駐南アフリカ大使)
大泰司 紀之(北海道大学名誉教授)
大森 義夫(大森事務所代表)
小笠原 敏晶(ニフコ名誉会長)
小川 郷太郎(外務省参与・イラク復興支援担当大使)
小田村 四郎(前拓殖大学総長)
折田 正樹(中央大学教授、元駐英国大使)
加藤 健(国後島元島民二世)
椛島 有三(日本協議会会長)
木内 昭胤(会社団体役員、元駐フランス大使)
北神 圭朗(衆議院議員(民主党))
木村 明生(青山学院大学名誉教授)
木村 汎(北海道大学名誉教授)
栗山 尚一(アジア調査会会長、元外務事務次官)
小池 百合子(衆議院議員(自由民主党))
木暮 正義(元東洋大学教授)
小堀 桂一郎(日本会議副会長)
小山 清二(内外情勢研究家)
櫻井 よしこ(ジャーナリスト)
佐々 淳行(元内閣安全保障室長)
佐藤 嘉恭(元駐中国大使)
澤 英武(評論家)
サンストロム 梨絵(ジャーナリスト)
三遊亭 金八(歯舞群島元島民二世)
茂田 宏(元駐イスラエル大使)
篠塚 徹(拓殖大学副学長)
島田 晴雄(千葉商科大学学長)
清水 實(ジャパンタイムズ名誉顧問)
杉浦 正章(政治評論家)
すぎやま こういち(作曲家)
鈴木 貞一郎(アトックス取締役会長)
清木 邦夫(会社役員)
瀬崎 克己(元駐南アフリカ大使)
髙池 勝彦(弁護士)
髙岩 優子(歯舞群島元島民)
髙木 剛(日本労働組合総連合会会長)
田島 高志(国際教養大学客員教授、元駐カナダ大使)
田中 義具(元駐ハンガリー大使)
田村 玲子(政治ジャーナリスト)
角田 英明(日本国際政治学会会員)
津守 滋(桐蔭横浜大学客員教授)
内藤 正久(日本エネルギー経済研究所理事長)
中川 義雄(参議院議員(自由民主党))
中野 良子(情報ソフト研究所代表取締役)
中原 千鶴子(煌代表取締役)
西村 眞悟(衆議院議員(改革クラブ))
野戸谷 秀樹(むつ市副市長)
長谷川 栄子(択捉島元島民)
長谷川 和年(元外務省欧亜局長、元駐オーストラリア大使)
長谷川 三千子(埼玉大学教授)
原田 廣二(会社員)
兵藤 長雄(元外務省欧亜局長、元駐ポーランド大使)
藤田 幸久(参議院議員(民主党))
古湊 壽登志(歯舞群島元島民)
松本 好隆(聖母女学院短期大学教授)
三上 祐二(択捉島元島民)
三上 洋一(択捉島元島民)
三井 辨雄(衆議院議員(民主党))
三村 洋史(会社員)
宮脇 磊介(初代内閣広報官)
村上 正泰(日本国際フォーラム理事・所長)
森井 敏晴(天理教名古屋大教会前会長)
山邑 陽一(神戸大学支援合同会社フェロー)
吉田 恵三(日本青年団協議会会長)
吉田 春樹(吉田経済産業ラボ代表)
若林 秀樹(元参議院議員)
渡辺 利夫(拓殖大学学長)
渡辺 繭(日本国際フォーラム総務主幹)
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